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■「最初の判断」が極めて重要に
――東芝の“不適切会計”処理に見られるように、最近、企業などの不祥事が相次いでいる。それに伴い、問題を起こした企業などが不祥事対応の一つとして、利害関係のない外部の専門家に依頼して不祥事の詳細な事実、原因等の調査や再発防止策を検討してもらう、いわゆる「第三者委員会」の設置が急増している。
しかし、不祥事を起こした企業などが第三者委員会を設置したからといって「不祥事への危機対応が成功する」「失われた企業の信頼が回復する」という単純なものではない。
昨年から今年にかけ、ＮＨＫ関連団体の不正事件、ＳＴＡＰ細胞で話題になった小保方氏の早稲田大学博士論文事件、ベネッセの個人情報流出事件、東洋ゴムの耐震性能問題等で、不祥事対応へのアドバイザー、第三者委員会の委員長などを務め、不祥事・危機対応のエキスパートといわれている長島・大野・常松法律事務所のパートナー、小林英明弁護士に企業の不祥事対応と第三者委員会の現状と課題について聞いた。
小林 企業や組織などで重大な不祥事が発覚したときの危機対応のポイントとして、部下から不正の事実を知らされた経営陣がとる最初の判断が、極めて大事であることを指摘しておきたい。このときの判断が、その後の対応にも多大な影響をもち、対応の成功、不成功を決定づけることになる場合が多い。
部下から不正の事実の報告を受けた経営陣は、リコール、改修などの緊急是正措置、顧客対応、行政対応、広報対応など、多くの対応をとらねばならない。この対応の初手を間違うと、経営陣自身も不適切な対応をしたという意味で、不祥事の一端を担ったと評価されてしまう。
たとえば、自社の商品に不具合が発覚したケースでいえば、「リコールをかける」「出荷を停止する」などの判断をすべきときに、間違った判断をしてしまい、不良製品をそのまま出荷し続けてしまうと、「不良製品を世に出し続けた」という二次的な不祥事に関与したと評価されることになる。
となると、次の判断をするときも、自身が行った最初の判断と真逆の判断は、たとえその判断が正しいものであるとわかっていても、なかなかしづらいものである。
■不祥事を想定した対策を作れ
――経営陣が最初の判断をする際、時間的制限はあるのか。
小林 私の経験からすると、24時間以内に正しい判断をすべき場合が多い。この間に適切な判断をしないと、誤った判断をしたことと同視されてしまう。
先ほどの例でいえば、「出荷停止をしない」との判断をしなかったとしても、何の判断もせずに、時間が経過すれば、それは「出荷停止をしない」との判断をしたと同視されてしまう。
しかし、何の備えもなく、このように短期間で正しい判断をするのは不可能だ。そのために、事前に十分な準備をしておかねばならない。
――どのような事前準備が必要なのか。
小林 「いわゆる『危機対応マニュアル』を作成しておくこと」「危機対応の専門家とのルートを確保しておくこと」「危機の際に情報を一元的に集め、緊急の諸対応を行う危機対応セクションのメンバーを決めておくこと」などだ。「危機対応マニュアル」は、すでに多くの企業で作成されている。しかし、それらの中には、「地震などの自然災害を念頭に置いた危機のマニュアル」になっているものも少なくない。企業で発生する不祥事を想定しての対応マニュアルを準備しておくことが必須だ。
――「第三者委員会」については、'10年12月に日本弁護士連合会（日弁連）が「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を作り、第三者委員会がこれに準拠することをすすめている。
だが、課題も多い。
小林 私は、不祥事調査は、客観性をもつことが必須のことだと考えている。そのため、社外の専門家などで構成される調査委員会（当事者以外の人で構成されているので、このような委員会を「第三者委員会」といってよい）は、非常に有益だと考えている。しかし、日弁連のガイドラインに準拠した第三者委員会には、マイナス面も多いと考えている。
マイナス面はいろいろあるが、その一つとして、調査結果等の正確性に問題がある点があげられる。社外の者のみで企業の不祥事の調査をした場合、その企業、あるいは、その業界の特有の事情、慣行等を十分に理解せずに調査をしてしまうことがある。その結果、調査委員会が行った事実認定等が真実とは違ったものとなってしまうおそれがある。
このような間違い等を避けるためには、その企業、その業界の事情に精通した人に調査結果等を検証してもらうことが必要だが、日弁連型の第三者委員会では、作成した調査報告書は公表前に委員以外の者に開示しないのが通常なので、調査結果の誤りが正される機会がない。
■経営陣の危機対応と連携せよ
二つ目のマイナス面は、危機が現在も進行している不祥事の際の調査には不適だという点だ。
危機が進行中の会社において、その会社が最優先してやらなくてはいけないのは進行している危機への対応であり、その際に必要な調査は危機対応に資する情報の収集であり、その情報を危機対応に役立てることである。不祥事を起こした責任者の追及や、再発防止策を検討するための事実調査ではない。
――危機が進行中の不祥事の場合に日弁連型の第三者委員会が適さないとすると、どのような調査主体がよいのか。社内調査では世間が納得しないと思うが？
小林 私が、危機が進行中の不祥事の場合に適するとして提唱しているのが、「危機対応型の社外委員会」の活用だ。
この社外委員会は、危機が進行中であれば、危機に資する情報を優先的に収集し、経営陣に情報を提供する一方、正確性、客観性を担保しつつ、情報収集にあたる。調査の客観性を保つために、社外委員会は、調査開始にあたって、経営陣から「調査方法は社外委員会が自由に選択する」「事実認定は、社外委員会のみで判断する」等を約束してもらう。
つまり、調査方法の選択、事実認定等に関して、社外委員会がすべての権限の委任を受け、経営陣がこれらに干渉しない旨の約束を取り付けるのだ。このような社外委員会であれば、経営陣が行う危機対応を助けつつ、正確でかつ、客観性をもった調査を行い、企業を不祥事（危機）から救い出し、企業の信頼性を回復することができる。
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