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膵がんを新ウイルス療法で撲滅へ
青木一教国立がん研究センター研究所副所長が挑む
早期発見が難しく進行も速い膵がん細胞をウイルスを応用して破壊する!
ジャーナリスト 安達 純子


青木氏らは世界初の大成果を
 がんの中でも難攻不落と呼ばれる膵がんは、膵臓が胃の裏側に位置するために早期発見が難しく、手術不適応の進行がんで見つかるケースが多い。進行した肺がんや大腸がんで効果を発揮している分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も膵がんには歯が立たず、膵がんの5年生存率は10%に満たない。この打開策として、現在ウイルスを応用した新たな治療法の開発が進んでいる。  ウイルスには、他の生物の細胞に入り、その遺伝子を利用して増殖する仕組みがある。この特性を生かし、風邪の原因となるアデノウイルスなどの遺伝子を変え、がん細胞に感染させ増殖し、破壊する治療法を「腫瘍溶解ウイルス療法」と呼ぶ(以下、ウイルス療法と略)。薬とは異なる仕組みで、'15年、米国食品薬品局(FDA)が皮膚がんの一種・悪性黒色腫におけるウイルス療法を初めて承認した。このようなウイルスを用いた膵がんの新たな治療法が誕生しようとしているのだ。 「これまでにウイルス療法の問題点は二つありました。一つは、マウスの実験では効果があっても人を対象とした臨床試験では、意外にもがん組織内でウイルスがそれほど増殖しないこと。もう一つは、がん細胞の中で増殖したウイルスが、がん細胞が壊れて外に飛び出したときに、正常な細胞に感染して有害な影響を与えることです。この二つを解決することがようやくできました」  こう話すのは、国立がん研究センター研究所の青木一教副所長。長年、ウイルス療法の創薬の研究開発に取り組み、新たなウイルスを生み出したことで、3年後の医師主導の臨床試験の実施を目指している。  青木副所長らが、がん細胞だけに感染するアデノウイルスを開発したのには、世界初のシステム構築の成果が大きい。アデノウイルスは、細胞の表面の受容体に、ファイバーといわれるアンテナ状の突起物の先端をくっつけることで、細胞内に侵入する。膵がん細胞の表面だけに存在する分子を受容体にしたファイバーの先端を作れば、正常な細胞にウイルスは感染せず、がん細胞だけに効率よく入るようになる。  しかし、ファイバーの先端をどのような形(アミノ酸配列)にしたらよいかは、世界的な研究でも全くわからなかった。青木副所長は、'07年、多種多様なアミノ酸配列を提示するライブラリーシステムを世界で初めて作ることに成功したのである。 「ライブラリーはいわば100万冊の蔵書のある図書館のようなものです。ライブラリーから、最も膵がんに適したファイバーの先端のアミノ酸配列を見つけ、膵がん細胞にのみ侵入するアデノウイルスを作成することができました」
■ウイルスを膵がんに直接注射
 
 青木副所長らが開発したアデノウイルスは、膵がん細胞に入って爆発的に増殖してがん細胞を破壊する。壊れたがん細胞から飛び出したウイルスは、その付近のがん細胞に再び侵入して増殖し破壊することを繰り返す。結果として、12日後にはがん細胞が死滅し、従来のウイルス療法よりも高い効果を得られた。人間の膵がんを移植したマウスの実験では、約40日で腫瘍が完全に消え副作用もなかった。 「アデノウイルスを膵がんに直接注射することで、血液中で起こりやすいウイルスに対する抗原抗体反応を避けられ、正常な細胞にも悪影響を及ぼしにくいといえます」  風邪などの感染症になると、体内では免疫機能が活性化して抗原抗体反応が起こり、ウイルスなどを排除する。ウイルス療法でも、血流中に治療用のウイルスが流れると、免疫系が排除しようと働くのが欠点だった。そうなると、ウイルスはがん細胞に到達する前に排除され、がん細胞に到達して増殖しても、別のがん細胞に感染する前に抗体などで駆逐されることになりがちだ。しかし、局所的な膵がんに対し、注射でウイルスをがん細胞に直接届ければ、抗原抗体反応は起こすことなくがん細胞だけを死滅させることができる。 「この創薬が完成した後、ウイルスを武装化すれば、さらに新たな治療法の開発につながると考えています。膵がんは、他のがんと比べて増殖が速く、分子標的薬などの効果も得られないのですが、その仕組みにアプローチする武器をウイルスに持たせることもできます」  がん細胞は、巧妙な仕組みで増殖し、免疫細胞から逃れる仕組みも生み出している。その仕組みを解除するために登場した免疫チェックポイント阻害薬も、膵がんには効かない。その理由は、膵がん組織の持つ特徴にあった。膵がんは多量の間質組織(線維化した組織)を作り出し、それが免疫系から逃れる盾になっているのだ。免疫系から逃れた膵がん細胞は増殖が速く、手術が不適応になり、治療薬の効果も得られにくい。 「従来から、がん細胞と免疫機能に関しての研究が盛んに行われていました。それを阻む仕組みとして、私たちが研究しているのは、間質線維とそこに集まる骨髄由来抑制細胞(MDSC)の相互作用です。膵がんの免疫抑制環境を作るのにMDSCが重要な役割を果たしており、それを解除すれば、抗がん剤や免疫療法などの効果を高められます」
■がん組織の免疫環境の破壊も
 青木副所長は、アデノウイルスでMDSCを破壊する構想を持つ。MDSCにアプローチするウイルスを作り、膵がん環境のMDSCを壊して免疫細胞が働けるようにしつつ、免疫の機能を高める免疫療法を組み合わせることで、膵がんを封じ込めるという発想だ。膵がん細胞のみならず、膵がんが生み出しているがん組織の免疫環境も破壊する。それが、未来のウイルス免疫療法だ。  青木副所長らが構築したライブラリーシステムは、他のがんへの応用も将来的には期待できる。肺がんや大腸がんに対する分子標的薬は、がんの持つ遺伝子異常に応じて効果を発揮するが、1年程度でがん細胞が二次的に遺伝子を変えることで耐性を持つことも分かっている。変異した遺伝子に対応した分子標的薬が次々と開発されているものの、変異の種類が多いため追いつかない。  しかし、ウイルス療法は、がん細胞の持つさまざまな遺伝子変異に関係なく、効果を発揮する。肺がんや大腸がんだけに侵入し、遺伝子変異に関わらずがん細胞を破壊するアデノウイルスは、ライブラリーシステムならば生み出すことが可能だ。がん細胞だけに特異的に侵入するウイルスは、応用範囲が広い。 「まずは、効果的な治療の乏しい膵がんで、新たな治療法の構築を目指します。その上で、がん固有の仕組みにウイルスでアプローチすることで、がんから助かる方を増やしたいと思っています」  新たな治療法の実用化の扉は、今開かれようとしている。

(2018年8月号掲載)
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