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■最大級の津波が日本海沿岸へ
１万８千人が犠牲になった東日本大震災から３年半たった今年８月下旬、政府の「日本海における大規模地震に関する調査検討会」（座長、阿部勝征東京大学名誉教授。以下、検討会）が、日本海の大地震で起きる最大級の津波の想定を公表した。
日本海には活断層タイプの断層が無数にある。検討会はこのうち日本海の沿岸に津波が及ぶマグニチュード６・８〜７・９の地震を起こす可能性のある60断層を想定。そのうえで断層の動きをモデル化し、沿岸を50メートルごとのメッシュ状に区切って押し寄せる津波の高さを計算したのだ。
10メートル以上の大津波が襲う地域で一番高いのが北海道せたな町23・４メートル、次いで青森県深浦町17・４メートル、石川県珠洲市15・８メートル、山形県鶴岡市13
・６メートル、新潟県粟島浦村12・６メートル、秋田県八峰町12・５メートル、だった。
津波到達時間も公表された。30センチメートル以上が１分以内で到達するのが北海道奥尻町や山形県酒田市など６道県15市町村、10分以内が14道府県の82市町村、新潟市は７分、福岡市は８分だった。ただ最大津波到達時間は地震によって異なるとした。
'93年の「北海道南西沖地震」では、発生からわずか数分で奥尻島に最大で高さ21�辰梁臘吐箸�押し寄せ、死者・行方不明者合わせて230人を出した。その10年前の'83年「日本海中部地震」では、津波の第一波が早いところで10分以内に沿岸に到達し、津波と地震で104人が亡くなった。
そして'11年3・11の東日本大震災では、死亡・行方不明者のうち約90パーセントは津波による溺死だった。
こうした事情を背景に、国土交通省は「津波防災地域づくりに関する法律」（'11年12月施行）に基づいて、避難を軸にした津波防災地域づくりを全国で推進していくことになった。その際、とくに日本海については、津波の発生要因となる大規模地震に関する基礎研究が必要になっていた。
そこで、中央防災会議事務局である内閣府（防災担当）と、地震調査研究推進本部事務局である文科省の協力を得て、'14年１月、「検討会」を設けたのである。
こうした調査・研究の成果を踏まえて、道府県の津波対策の見直し、修正を行っていくことになる。この検討会（13人の委員から構成）の座長が日本の地震研究、予知研究のメッカである東大地震研究所の元教授で、いまなお‘地震ムラ’のボスといわれる阿部東大名誉教授である。
■専門家は「公表」を評価しない
だが、検討会の津波襲来の公表は、専門家の間での評価が驚くほど低い。
海底地震の解析研究のパイオニアで、海底地震メカニズムの解明などで知られる、武蔵野学院大学の島村英紀特任教授が語る。
「全国の活断層の地図がすでにある。その活断層が地震を起こすとしたら、津波はこうなると計算したのが今回のものだ。北海道南西沖地震や日本海中部地震があったところについては、プレート境界なので海底で地震が起きたときに海面が３�辰�ら５�綻紊�ったなどとして、津波の計算はできる。だが、それ以外の活断層については地震の際どんな動きをするのか、垂直方向の変動があるのか、まったくの目の子算でしかない」
第一、どの活断層がどの程度の規模の地震を起こすかわかっていないのに行ったのが、今回の計算だ。活断層は陸上のものでさえ、ボーリング調査や「トレンチ調査」（数メートルの溝を掘り壁面の地層を観察すること）がなければ、正確な活動記録や可能性がわからない。
「海底の活断層はソナーで判定したもので、実態があまり解明できていない。さらに、日本の太平洋側の海溝型地震は比較的繰り返しの期間が短いので、予測できる可能性がある。ところが、内陸や日本海での、海溝型でない地震については、繰り返しがあるかどうかわからず、指標もまったくない」（前出、島村氏）
『日本人が知らない“地震予知”の正体』などで、政府の地震政策を批判してきたロバート・ゲラー東大教授（地球物理学）も厳しい。
「今回の大規模地震による津波計算は、津波の規模を計算できるアルゴリズム（計算方式）を作り、そこに数字を当てはめたにすぎない。本当に該当する値かどうかはまったく検証されていない。検証されていない値はただの数学的遊びにすぎない」
ゲラー氏は30年前に来日したとき、実際に起きるかもわからない地震を「東海大地震」と称して、その予知を国（気象庁）が担当するとした「大規模地震対策特別措置法（大震法）」という不思議な法律があることを知って驚いた。
予知研究は国家プロジェクトとして'65年にスタートし、5か年計画が第7次まで続いた。しかし、東海地震は起こらず、'95年に阪神・淡路大震災が、 '11年３月に東日本大震災が起きるに及んで、ようやく「地震予知」は脇に追いやられ、災害軽減研究が主流になるのである。
■弟子と門外漢を集めた阿部氏
阿部氏は地震予知がメーンでなくなっても、“地震ムラ”に君臨する。
「阿部さんは研究者の間でも評判は良くなかった。東大大学院を終えて北大へ行き、その後、23年間東大地震研にいたが、所長になれなかった。大変な自信家で、一度東大入試に失敗した折、自分は何点でダメだったのか大学に聞きにいったという話が伝わっている。学問的にもあまり目立った業績はない。それでいて、政府寄りのスタンスを取ることが多く、委員会などを一定の方向でまとめるのが得意だった」（地震学会関係者）
実際、検討会の委員には阿部氏の息のかかった学者が目立つ。副座長の佐竹健治東大地震研教授は、地震研の地震予知情報センターを経ている阿部氏の弟子で、誤認があった立川断層の肯定論者。また、谷岡勇市郎北大火山研究観測センター長は、米ミシガン大で佐竹氏の弟子だ。
他のメンバーも、鷺谷威名古屋大減災連携研究センター教授は、国土地理院出身で地殻変動の専門家ではない。海野徳仁東北大リーディング大学院特任教授は、東北からも委員を選んだほうがいいからと選出されており津波の専門家ではない。戸川一臣北大名誉教授は、陸上にどのくらい津波の痕跡が残っているかを調査する専門家だ。結局、津波の専門家は佐竹氏ぐらいなのだ。
検討会の数値公表は、それでは何が目的だったのだろうか。
「一つは東日本大震災で想定外の津波が発生した。その反省から最大値を公表しておけば、政府が批判の矢面に立たなくて済むと考えた。もう一つは、原発再稼働を後押しする（津波対策はこの範囲なら大丈夫と定める）ために数値を出したとも考えられる」（全国紙科学部記者）
阿部氏の根拠の薄い研究と政府、官僚のアリバイ作りのために、税金を費消される国民こそ、たまったものではない。
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