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必読レポート  南海トラフ大地震‐過大予測に慌てるな
死者32万人というが
地震・津波対策に1千億円強を計上するが、そのため被害想定は大きいほどよい?!


■政府の被害想定が過大な理由
 死者最悪32万人――。  内閣府中央防災会議の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(主査、河田惠昭関西大学教授)が防災の日の直前、8月30日、駿河湾から日向灘の「南海トラフ」を震源とするマグニチュード(M)9・1の最大クラスの地震が深夜に発生した場合、最大34メートルの津波が太平洋沿岸を襲い、最大32万3千人が死亡し、238万6千棟が全壊・焼失。経済的な損失は100兆円――とのとてつもない被害想定を公表した。  南海トラフ地震とは、太平洋の水深約4千メートルの海溝「南海トラフ」沿いに起きる地震。M8級の東海、東南海、南海地震は100〜150年おきに繰り返し起きており、政府の中央防災会議は'03年、3地震が連動して起きた場合の被害想定を出していた。  関東から九州の沿岸では、場所によって10メートル以上の津波が来襲し、最悪の場合死者約2万8千人、経済的な被害は最大81兆円だった。  しかし、政府の被害想定は、同じ地域なのに、なぜこうも極端に違ってくるのか。想定死者数に至っては約12倍にハネあがっている。  武蔵野学院大の島村英紀特任教授(地震学)が語る。 「あんな数字をはじき出した科学的根拠は極めて怪しい。南海トラフでの地震の場合、4〜5通りのパターンがあって、たとえば津波にしてもいちばん強く出る中心地というのは限られてくる。3・11東日本大震災('11年)でもそうだったが、全体にわたって強く出ることはあり得ない。それを今度はあり得ることだとして試算している。だから、死者32万人には何の根拠もない」  最大の地震が仮に来たとしても、どこでどういう原因で何人死ぬのかまったく考慮されていない。例えば阪神・淡路大震災('95年)では80パーセント以上が家屋や家具による圧死で、東日本大震災では津波による溺死が90パーセントだった。さらに関東大震災('23年)のように火災も発生する可能性が高いが、それらは検討されていない。  また、災害弱者といわれる体の弱い人は、被害に遭いやすい。東日本大震災では高齢者や身体障害者が多く亡くなった。'11年の防災白書によると、東日本大震災の死者のうち60歳以上の比率は64・4パーセントで、東北3県沿岸市町村人口の同比率30・6パーセントの2倍以上となっており、高齢者のほうがより多く死亡している。  被害想定を出すならば、そうしたことも考慮するのが当然だが、今回は想定されていない。 「なぜこんなことになったか、理由は一つしか考えられない。3・11では『想定外』が徹底的に批判されたが、南海トラフ巨大地震が起きて'03年の2万8千人を超えたらどうするか。今度は『想定外でした』では済まされない。それであり得ない数字を足していって、32万人としたというのが真相だと思う」(前出・島村氏)



■地震予知で予算を確保する?
 たしかに、なぜわざわざ深夜の時間帯に起きたと仮定したのか不思議だったが、死者の数をできるだけ大きくするために必要だったのだろう。  いいかげんな数字だが、数字にはもう一つの狙いもある。3連動地震より大きいM9クラスの被害想定を土台に、秋には経済被害想定を出し、この冬に南海トラフ地震対策の全体像をまとめるとしている。  その上で、政府は死者が出ると想定されている関東から九州・沖縄の30都府県で最悪の事態への備えを強化するために、特別措置法を制定するという。中川正春防災担当相は8月29日の記者会見で、こう語った。 「来年の通常国会までに法案を提出したい」  全国紙論説委員が語る。 「これは民主党版ヤ列島改造論ユに他ならない。津波や地震の被害を少なくするために建物の耐震化とか津波対策を実現していく"公共投資"だ。実際、被害想定を発表したとき、防災対策を実施すれば6万人も救われるとアピールしていた。想定死者数を大きくとったのは、救われる人数を多くはじき出すためだ」  要するに、防災のための予算を大きくすれば、それだけ人の命を助けることができる、といいたいのだ。  政府が8月にまとめた概算要求では、東日本大震災の復興経費は別枠だが、同時に全国で防災・減災への配分も特別扱いになりそうだ。国交省では、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の被害を防止するため、公共施設の耐震化、津波対策の推進に905億円を計上するとしている。  さらに、住宅、建築物の耐震化でも、災害時の必要な避難路沿道の建築物の耐震化に対する支援の仕組みを創るためにも150億円を充てる。  南海トラフ巨大地震に含まれてしまったが、根拠がないのに地震予知できるといって予算がついたのが、東海地震だった。  地震予知は国の「研究計画」からスタートし、'69年には「実施計画」へ格上げされて高額予算の取得が可能になり、年70億円もついた。ところが、東海地震ではなく、阪神・淡路大震災、東日本大震災が起きてしまった。東海地震は今度は単独ではなく、南海トラフ巨大地震として、もう一度、予算確保に駆り出された格好なのだ。



■大震災に負けない五つの教訓
 ただ南海トラフ巨大地震の想定死者数の大きさに惑わされる必要はさらさらないが、大地震が起きたとき、どうすればいいのか。  阪神・淡路大震災と、東日本大震災から、教訓は引き出せる。  〆膿靴侶築基準法に沿って、住宅を耐震性の強いものにする。  阪神・淡路大震災のとき、'71年以前の住宅はかなり倒壊したが、新しい家は2パーセントしか倒れなかった。  可能な限り、高台に住む、あるいは海岸から奥まったところに住む。  3ご澑茲い粒垢涼罎法津波でも倒壊しないビルを新しく建てるか、既存のビルでも津波に耐えられる建物を選んで避難用に指定しておく。  す睥霄圈⊃搬両祿下圓覆鼻嶌匈下綣圈廚砲弔い討蓮普段から特別の対応を考えておく。  テ邀ぅ肇薀婬霏臙録未里茲Δ鉾鏗加楼茲広くなると、地震発生から1週間くらい、援助の手が届かないところが出てくる。そういう地域は、水、食料を多めに備蓄しておく。  そしていますぐ政府が手をつけるべきは、気象庁改革だ。 「気象庁には以前、研究者が大勢いいて、専門家として蓄積があり、存在感があった。ところが'00年ごろから3年毎に職場が変わるようになり、他省庁の役人と変わらなくなってしまった。そのため、みんなマニュアル人間になった。3・11の緊急津波警報も、最初の1分間の揺れだけで地震の大きさを決めるため、津波も2〜3メートルになってしまう。3・11で被害が大きくなった一因だ」(前出、島村氏)  こんな調子で死者32万人とは、噴飯ものだ。




(2012年10月号掲載)
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