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■国民を守るミッションがない
サイバーテロへの危機意識が、世界で日々強まってきている。日本はその危機意識がいまだ薄いといわざるをえないが、サイバーテロはもはや個人のハッカーによるいたずらどころではなく、国家的な組織による最先端の“兵器”となっているのが現実である。
サイバーテロ対策が進む米国では、「サイバー戦」という概念すら一般化しつつある。’01年の９・11同時多発テロ直後、米国はアルカイダなどアラブのテロリストによる大規模なサイバーテロを警戒して「サイバースペース安全保障担当補佐官」を新設。米国防総省などでﾔテロの権威ﾕといわれた初代のリチャード・クラーク氏は、「今後、日本の真珠湾奇襲に相当する『デジタル・パールハーバー』が起きる可能性がある」と語っていた。
そんななか、日本でもサイバーテロの危険性が出てきているが、自衛隊はそうした事態に対し、どのような対策をとっているのだろうか。
元自衛隊幹部で’05年に陸上自衛隊が立ち上げたサイバー部隊「システム防護隊」の初代隊長を務めた、情報セキュリティ会社ラックの特別研究員、伊東寛氏がいう。
「自衛隊は国民の皆さんを守ることが任務ですので、個人的には日本の重要なコンピュータシステムを守らなければいけないと考えていました。ですが残念なことに、サイバー攻撃から日本を守る使命が現時点では国から付与されていないため、必要な人員や装備品が十分ではありません。またサイバー攻撃に対する研究はしていても、日本のインフラシステムに関する調査や、いざというときの官民協力の準備も足りません。そのため、警察から求められることでの協力しかできない状況なのです」
伊東氏はこう解説したが、ある軍事ジャーナリストが指摘する。
「こうした自衛隊の情報部隊の任務は基本的に、自衛隊だけのシステムを守ること。だからサイバー攻撃に対する研究はしていても、国民を守るミッションが付与されていないため、サイバーテロが起きてもその備えは何もないといわざるを得ない」
サイバー戦は大きく「戦術的な攻撃」と、「戦略的な攻撃」に分けられる。簡単にいうと前者は軍隊で使用しているコンピュータシステムを攻撃することを指し、後者は民間の工場や交通インフラで使われているコンピュータシステムを攻撃して、社会基盤や日本経済全体に大打撃を与える。太平洋戦争にたとえれば、Ｂ29が日本にじゅうたん爆撃をしたような「デジタル・Ｂ29」だ。
■サイバー空間でも“専守防衛”
防衛省は近く、自衛隊に「サイバー空間防衛隊」を設置する計画を進めている。防衛隊では、「サイバー防衛に関する調整や技術面の支援を行う、サイバー防衛を担当する人材の育成・訓練を支援する、サイバー攻撃への対処案を作成する、諸外国におけるサイバー攻撃の事例について情報を収集・分析する」という。
自衛隊すべての統合的な戦術的サイバー防護部隊ができるともいえるが、こうした動きに対して前出の軍事ジャーナリストがいう。
「資料を見る限り、サイバー戦に対して防衛的な内容ばかり。守るほうだけ研究するということは、結局一度サイバーテロにやられなければ攻撃方法がわからず、その対処法もわからない。いま自衛隊の関係者に話を聞くと、そういう後手後手に回っている現状に不満を持つ人も多い」
ここでもﾔ専守防衛ﾕがネックになっているのだ。
その一方で、日本の周辺国は着々とサイバー部隊の育成を進めている。特に中国では早くからサイバー技術の軍事利用に取り組んでおり、サイバー部隊も存在している。そのため、中国が軍事行動を起こして日本に攻め込んだ場合、戦術的サイバーテロを仕掛ける可能性もある。
前出の伊東氏がいう。
「中国は電子戦（電波傍受や電波妨害）とサイバー戦を一体化して、『電網一体戦』という戦略をとっています。仮に攻め込んでくるとしたら、自衛隊のコンピュータではなく、日本の本土全体に対してサイバー攻撃を仕掛け、交通システムや飛行機、物流の停止、発電所の停止、果ては原子力発電所の暴走などの大混乱を引き起こすことも想像できるのです」
こうした話はあくまで想像の域を出ないと思われるが、そうではない。特集�修痢屮好織�スネット」のケースが現に起きているが、あるＩＴジャーナリストは「すでに日本でサイバーテロは起こっているのではないか」といった後、こう続けた。
「最近、首都圏を中心に鉄道の遅延が増えたと感じるが、背景にコンピュータシステムのトラブルが関係している。最近も鉄道網がマヒしたが、企業が公表した原因は『ハードディスクの故障』だったと聞いている。しかし、何重にも対策がとられたシステムであれば、ハードディスクが壊れても、システムダウンは起きないのだが……」
たしかに、こうした重要なシステムで、ハードディスクが一つ故障した程度でシステムがマヒするわけがない。外部から何者かがネットワークに侵入してトラブルを引き起こした可能性があるのに、企業がイメージダウンを恐れて公表しないのではないかと勘ぐりたくなる話だ。
■米国と比べて20年後れている
こうした“日常的なサイバーテロ”が真実なら、それでも日本に大きな被害がいまだに出ないのはなぜか。
「そうした攻撃を繰り返して、『偵察』をしている可能性があります。冷戦時代、ソ連は毎月必ず、ウラジオストク方向から東京に向かって偵察機などを飛ばしていました。自衛隊ではこれを『東京急行』と呼んでいましたが、実はソ連は定期的に同じ行動をとることで、『航空自衛隊が何分でスクランブルを組んでくるか』といったことから、レーダーの周波数まで調べていました。つまり、最近の出来事は何者かが『サイバー上の東京急行』を日本に対して行っているのではないかと考えられます」（前出の伊東氏）
サイバー戦の特色は、「距離的関係がなく、誰が攻撃したかもわからない」ことだが、ネットワークの上では日米同盟も微妙な関係になってくる。米国は数年おきに数百万�譴發陵住擦鮖箸Α屮汽ぅ弌璽好函璽燹淵灰鵐團紂璽織優奪肇錙璽�空間の嵐）演習」を国会で決議し行っている。こうした取り組みの違いから、日本は「米国から20年は後れを取っている」（前出の軍事ジャーナリスト）といわれているほどだ。
今後は各国が連携をとり、世界中のネットワークを監視する動きもあるが、まず日本がすべきは、戦略的サイバーテロによって国民が攻撃されたとき、現状の「専守防衛」で国を守れるのかという、基本的問題の解決だ。
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