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■国民とともにあることを望む
天皇、皇后両陛下は、６月下旬、沖縄の「対馬丸記念館」を初めて訪問された。太平洋戦争中’44年（昭和19年）８月22日午後10時23分ごろ、米潜水艦ボーフィン号からの魚雷攻撃を受けて鹿児島県悪石島付近で沈没した学童疎開船対馬丸の悲劇を伝える記念館だ。今年、撃沈されてから70年の節目にあたる。
対馬丸沈没で、学童約800人を含む約１千500人が犠牲になった。
両陛下が対馬丸で同世代の学童が何百人も犠牲になった一件を知ったのは’70年ごろといわれる。’75年８月22日、三十三回忌のとき海上慰霊祭が遭難現場で行われた。当時、皇太子、皇太子妃だったお二人は、白菊を供花されている。
また、対馬丸が発見された’97年の誕生日記者会見で、天皇陛下は「私と同じ年代の多くの人々がその中に含まれており、本当に痛ましいことと感じています」と述べられた。
対馬丸記念館の高良政勝氏（74歳）が、本誌の取材にこう語った。
氏は当時４歳で、両親、兄弟９人の11人で対馬丸に乗っていたところ、両親と兄弟７人を亡くした。
「記念館内をご案内しているときに、天皇陛下は『護衛の船は救助できなかったのですか』といわれました。皇后陛下も『対馬丸が疎開児童の船だとアメリカは知らなかったのですか』といわれていました」
沖縄では、皇室に対して本土の人とは違う感情を持っている人が多い。太平洋戦争末期に沖縄が戦場となり、住民に多数の犠牲者を出したからだ。
対馬丸撃沈の約１年前の’43年（昭和18年）11月、ニューアイルランド島西北を航行中の陸軍病院船「ぶゑのすあいれす丸」が、米Ｂ24型機の不法攻撃により沈没。看護師を含む174人が犠牲になった。当時、日本の病院船が数隻、米国から不法攻撃を受けており、政府は重ねて厳重に米国に抗議している。
対馬丸についても、戦後、事情を知った国民から怒りが沸き起こり、米国に強く抗議し謝罪を求めるべきだという動きがあったが、ときの政権も国会も沈黙するだけだった。
今上天皇の「国民の象徴」としてのスタイルは、’89年に55歳で125代天皇に即位されたときから始まっているわけではない。両陛下の皇太子時代からの言動から察すると、次の３点に集約できそうだ。
�仝�害や環境問題への取り組み。
�⊃半禺圈�高齢者、それに被災者など弱者への思いやり、励まし。
��戦争で亡くなった人の慰霊、悲惨な目に遭った人や遺族への祈り。
これらを両陛下が繰り返していわれてきた「国民とともに」の姿勢で実行されていく??ということだ。
■「祈る」ために各地へ足を運ぶ
両陛下はさる５月下旬、「日本初の大規模公害」として知られる足尾銅山跡を私的な旅行として訪問された。「破壊された自然が再生した様子を見たい」という天皇陛下の意向によるものだ。被災者など弱者への思いやりでは、歴代天皇で初めて膝をつかれてのお見舞いである。皇太子のときからそうだったが、’91年、長崎県の雲仙普賢岳噴火の被災者に、両陛下は膝を屈して励まされたのだ。
そして三つ目の戦争で亡くなった人の慰霊であり、祈りである。
天皇陛下は皇太子時代に「日本には、どうしても記憶しなければならない日が四つはある」として、次の日を挙げている。いずれも’45年（昭和20年）で、沖縄戦終結の日（６月23日）、広島の原爆投下日（８月６日）、長崎の原爆投下日（８月９日）、それと終戦記念日（８月15日）である。
なかでも沖縄への思いは特別だった。昭和天皇は沖縄訪問を希望されていたが、沖縄県は訪問を拒否し、実現しなかった。その無念の思いを今上天皇は皇太子時代から引き継ぐのである。’62年（昭和37年）、東京の中学校教師らの発案で米国統治下にあった沖縄の豆記者と日本の豆記者の「交歓事業」が始まった。沖縄の豆記者を東宮や皇居に呼んで、その事業を応援してきたのが、皇太子時代からの今上天皇だった。
そして、’75年７月17日、皇太子ご夫妻は皇室として戦後初めて沖縄訪問を実現し、糸満市にある「ひめゆりの塔」に献花された。
ひめゆりの塔では火炎瓶などが新左翼過激派から投げつけられたが、’87年にはご病気だった昭和天皇のお言葉を携え、沖縄国体に再び沖縄を訪問された。このときも日の丸焼き打ち事件などが起きたが、沖縄の反天皇感情は、以降、急速に薄れていくのである。
その後、戦後50年、60年の節目には長崎、広島、沖縄、東京都慰霊堂、硫黄島、サイパン島へと慰霊の旅を重ねられている。ただ、今上天皇の慰霊の旅、祈りの旅はこうした地域だけではないといわれる。
■皇室に次の新しい風は吹くか
皇室の内部事情に詳しいジャーナリストが語る。
「今上天皇は韓国、あるいは旧満州国の地域にも出来れば行ってみたいと考えておられる。左翼や右翼の双方から批判されそうだが、陛下には、かつて日本が関係した国や地域の住民たちを守るという強烈な使命感や、それが出来なかったことへの無念の気持ちを持たれている。また韓国に対しては今上天皇ご自身が『私自身としては、桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると、続日本紀に記されていることに、韓国とのゆかりを感じています』と’01年に発言されているように、皇室の起源についての関心によるものがある。ただ、これは決して韓国が好きとかではなく、以前日本国であったという同族意識のようなものではないのか」
事実、最近でも今上天皇と親しい人が中国や韓国に行くと聞かれると、「あの○○王の陵がこの辺りにあるから写真を撮ってきて」などとお願いしているといわれる。
翻って、現在の皇太子ご夫妻のスタイルとは何か。美智子皇后は60歳の誕生日を迎えるにあたって、「両陛下が皇室に新風を吹き込んだのでは」との記者団からの質問に文書でこう答えられた。「きっとどの時代にも新しい風があり、またどの時代の新しい風も、それに先立つ時代なしには生まれ得なかったのではないかと感じています」。
民間出身の美智子皇后がおられて、川嶋紀子さん、小和田雅子さんも比較的スムーズに皇室入りされた。天皇、皇后両陛下は、それまでの慣習を改め、初めて手元で子どもを育てられた。皇太子ご夫妻も当然のように、愛子さまを育てられている。
その愛子さまの言動が、週刊誌の格好のネタになってﾔ増幅ﾕされている。最近は「先生大嫌い。私のいうこと聞かないから」とかいった発言が『週刊文春』に紹介されて、宮内庁は「事実無根」と抗議した。
天皇陛下はすでに80歳（美智子皇后は79歳）、皇太子ご夫妻は次の天皇、皇后として国民にどういうスタイルを示されるのか、わからない。もうあまり、時間はない。
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