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■食習慣や気温が影響を及ぼす
今冬は暖冬とはいわれるが、毎年この時期に急増するのが、脳梗塞である。冬は血管にとって大敵である。
「脳血管障害」あるいは「脳卒中」は、日本人の死因のトップ３に挙げられる疾患だ。このうち、脳の血管が破れることで起きるのが「脳出血」や「くも膜下出血」。脳の血管が詰まって発症するのが、「脳梗塞」だ。
健康なときは血流に乗って脳の隅々にまで行き渡っていた酸素や栄養が、脳梗塞になると血管が詰まってうまく届かなくなり、その先の脳細胞は徐々に壊れてしまう。
日本人の死因第１位・がんに続くのが心疾患と脳血管疾患で、この二つを合わせると、年間30万人超、国民の３人に１人は、血管病（循環器病）で亡くなっているのだ。
また、脳卒中で救急搬送される人は、年間で32万人に上る。このうち脳梗塞で搬入された患者の死亡率は約15％だが、血管が詰まった場所によっては、半身麻痺や言語障害、あるいは認知症といったさまざまな後遺症が残るケースが多い。脳梗塞患者の約半分は、何らかの重度の障害が残るとされる。自覚症状がないまま静かに進行していくことも多く、突然死は免れたとしても、その後に辛いリハビリや家族の介護負担といった問題が待っているのだ。
東邦大学医療センター佐倉病院で臨床生理機能検査部長を務める東丸貴信教授が語る。
「脳梗塞は発症後３時間、最大でも４時間半以内に、血栓を溶かす薬を注射すると、詰まった血管が再開通できる。これ以上時間がたつと、血栓が溶けにくく出血リスクも高くなる」
だからこそ予防が重要な脳梗塞なのだが、その原因の大部分は生活習慣病、とくに高血圧が占める。
伝統的に塩分の多い食生活を長く続けてきた日本人は、加齢とともに血圧が上昇しやすく、それが動脈硬化につながって血管の内側が脆くなる。そうした血管壁に余分な脂肪分などが溜まって血栓ができやすくなると、ますます血管は狭くなり、血圧もさらに上がり……といった悪循環が、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高める。とくに脳の血管は細く、詰まったり破れたりしやすい。
「最近は和食も減塩が一般的で、血圧のコントロールがよくなってきた。その代わり、油ものが多くカロリーの高い欧米の食生活に近づいたことで、動脈硬化が増え、血管が詰まる脳梗塞が増えてきた」（東丸教授）
食習慣だけではなく、気温の寒暖差が血管に対して大きな影響を及ぼす。人間の体は寒さを感じると、血管を収縮させるようにできている。さらに、寒さに対するストレスが、交感神経を活性化させ、血圧を上げるホルモンが増えるのだ。寒暖差が大きいほどこの傾向が顕著になる。
■揚げ物は避けてなるべく歩く
そこで、脳梗塞の予防法だが、まず、冬場に外出する際は、帽子やマフラーなどを着用することが基本だ。また、暖房がきいている商業施設から冷たい外に出るときも注意が必要。たとえば、外食後はリラックスして血管も広がった状態にあるはずだから、レストランから外に出るときは、防寒対策を強く意識したい。
また、朝は血圧が上がりやすい時間帯で、起床後１時間はとくに注意が必要だ。鉄筋コンクリートのマンションなどでは朝方の室温が極端に低くなることは稀だが、起床時はまず、布団のなかで手足を５分程度動かし、指先まで血行をよくしてから起き上がるようにすると、急な血圧上昇は避けられるはずだ。
寒さ対策だけではなく、生活習慣そのものを改めることも重要だ。
脳梗塞の直接的なリスク因子は、前述の通り、高血圧だ。しかし、生活習慣病はさまざまな要因が複雑に関与し合い、高血圧以外にも、悪玉コレステロールなどの脂質異常や糖尿病、喫煙といった複数の因子で引き起こされる。
高血圧、高脂血症、糖尿病といった、メタボリックシンドロームは動脈硬化に繋がる。喫煙、飲酒はもちろん、食事に気を配り、さらに運動を心がけることが一番である。
たとえば、通勤時になるべくエスカレーターやエレベーターを避け、階段を使うなど、歩く時間を増やす。食事はなるべく揚げ物が少ないものを選ぶといった、些細な心がけを積み重ねるだけでも、血管障害のリスクを下げることができ、脳梗塞に限らず、生活習慣病の予防にもなる。
ちなみに、脳ではなく心臓の血管が詰まることで発症する心筋梗塞も、やはり、危険因子の一つに生活習慣が挙げられている。
脳血管障害には、このような心臓の不整脈が原因で起こる心原性脳梗塞がある。不整脈によって心房の中に形成された血栓（血の塊）が剥がれて動脈に流れ出したものの、細い脳の血管は通れずに、詰まらせてしまうものだ。実は、脳梗塞の原因はこの心原性が最も多いのだ。
もはや国民病とも呼ぶべき脳梗塞だが、一部の大病院を除くと、超音波で血管の状態を確認する心エコーなど、血管病専門の精密検査はあまり普及していないのが実情だ。
「血糖値、血圧や脂質値が高くても、よほどでなければ症状は特にでません。薬を飲めば数値はよくなるので、様子を見ましょうということになります。しかし、血管がどうなっているかというと、どんどん動脈硬化は進んでいます。でもそこまでは、糖尿病などの専門の先生でも診てくれるわけではありません」（東丸教授）
■循環器ドックで一度は検診を
汐留シティセンターセントラルクリニック（東京都港区）で、数年前から循環器ドックを担当する東丸教授は、血管を定期的にきちんと調べることの意義を強調する。
「血管病の問題は、血管が壊れて出血を起こすとか、梗塞を起こすということ。しかし、早めに血管を調べて、どの程度の障害を起こしているかを見るのは、普通の健診の項目には含まれない。脳梗塞や心筋梗塞は、致命的か生活状態をガクッと下げてしまうかで、社会的な負担にもなる。そうならないために、循環器ドックというものがあるのです」
生活習慣病のうち、日本人の高血圧患者は４千万人に達するといわれ、50代になると、男性の約60％は高血圧を抱えているという。そのうちの多くは脂質異常を抱え、糖尿病などの予備軍と考えられる。
だが、高血圧患者のうち、降圧剤などで治療を受ける人は３分の１程度だという。健診を受ける人の数が少ないうえに、実際に検査を受けても、血圧が多少高いくらいでは、治療しようと考える人はまだ少ない。
高血圧は自覚症状がなく、40代以上の特定健診などでは、数値の異常を指摘されても、食事や運動といった生活改善の指導にとどまることのほうが多いという。血管のメンテナンスを意識したなら、早急に循環器に特化したドックなどで、血管の内側を診てもらう必要がある！
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